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職場のセクハラ・パワハラって「同意」があればOKなの? ― 周囲の環境悪化も含めて考える

  • 7fuku-law
  • 9月6日
  • 読了時間: 5分

こんにちは、弁護士の山下です。今回は、働く人なら誰しも気になる「セクハラ」と「パワハラ」の定義、そして「本人が同意していたら問題ないのか?」という点について、わかりやすく整理してみたいと思います。

特に、直接の当事者が「嫌だ」と言っていなくても、周囲の雰囲気を悪化させる行為がセクハラやパワハラにあたるのではないか、という点に注目していきます。

そもそもセクハラって何?

セクシュアルハラスメント、いわゆるセクハラは「職場での意に反する性的な言動」を指します。大きく分けると次の2つのパターンがあります。

  • 対価型セクハラ性的な言動に応じるかどうかで人事評価や労働条件に差がつくもの。たとえば「関係を断ったら左遷された」「飲み会での誘いを断ったら評価が下がった」といったケースです。

  • 環境型セクハラ性的な言動が続くことで、働く環境そのものが不快になるもの。たとえば「職場で性的な冗談ばかり言われる」「デスクの近くにヌードカレンダーを貼られる」などです。

ここで大事なのは、同性間でも成立するし、性的指向や性自認も関係ないということ。つまり「男同士だから問題ない」とかでは済まされないということです。

ではパワハラは?

パワーハラスメント(パワハラ)は、職場での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて苦痛を与えることを指します。

上司から部下だけでなく、同僚同士や、場合によっては部下から上司に対しても成立します。

典型的な例は以下の6つです。

1.身体的な攻撃(殴る、蹴るなど)2.精神的な攻撃(暴言、脅迫、侮辱など)3.人間関係からの切り離し(仲間外れ、無視など)4.過大な要求(到底できないノルマを課すなど)5.過小な要求(逆に仕事を与えない、雑用ばかり押し付けるなど)6.個の侵害(プライベートに過度に踏み込む、個人情報をさらすなど)

「上司だから命令できる」「昔は普通だった」なんて言い訳も通用しません。

「本人が同意してたら大丈夫?」という誤解

ここが多くの人が気になるところです。結論から言うと、本人が同意しているように見えても、それで即セーフになるわけではありません。

セクハラの場合

セクハラの定義自体が「意に反する性的言動」なので、被害者が明確に「同意」しているなら原則セクハラにはなりません。しかし注意すべきは、職場の力関係です。

たとえば上司から部下に「飲みに行こうよ」と誘ったとき、部下が笑顔で応じても「本当は断りたかったけど、昇進に響くかも…」と考えていたら、それは自由意思とは言えません。

また、本人が同意していたとしても、他の社員が強い不快感を覚えるような行為(性的な冗談、画像の掲示など)は環境型セクハラに当たり得ます。

パワハラの場合

パワハラも同じです。たとえば「休日出勤を頼まれて快く引き受けた」とか「厳しい指導を自分が望んだ」という状況なら直ちにパワハラにはなりません。ただし、「断れない雰囲気」「優越的な関係」があれば、同意は真意ではないと判断される可能性が高いのです。

「周囲への影響」でハラスメントとされる場合

ここで重要なのは、直接の当事者だけじゃなく、周囲の人の就業環境も判断基準になるという点です。

セクハラのケース

  • オフィスにヌードポスターを貼る

  • 性的な噂を職場にばらまく

  • 雑談で下ネタばかり話す

これらは行為を直接向けられた当事者本人が心の底から同意していたとしても、周囲の従業員が不快になり、職場全体の雰囲気が悪化します。その結果、環境型セクハラとして認定される可能性が高いのです。

パワハラのケース

  • 上司が特定の部下を繰り返し怒鳴りつける

  • チームの一人を意図的に孤立させる

こうした行為も、対象本人だけでなく、周りの人も萎縮して働きにくくなり得ます。つまり、職場全体の環境を悪化させるため、パワハラに当たると評価され得ます。

判断基準は「平均的な労働者の感じ方」

裁判例や厚生労働省のガイドラインでは、「平均的な労働者がどう感じるか」や「社会通念」が判断基準とされています。

つまり、本人が「嫌じゃない」と言っていても、社会一般の常識から見れば不適切であればハラスメントとされるのです。

事業主の責任は重い

セクハラ・パワハラが職場で起きると、従業員の健康や就業意欲に大きな影響が出ます。そのため法律は、事業主に対してハラスメント防止措置を義務づけています。

具体的には:

  • 相談窓口の設置

  • 研修や啓発活動

  • 苦情が出たときの迅速な対応

  • 行為者への適切な処分

などが必要です。「放置していたら会社の責任になる」という点は強調しておきたいですね。

「防止措置を取るべき職場」の定義も押さえておこう

ここで一つ大事な補足をしておきたいんですが、「セクハラやパワハラの防止措置って、大企業や人数が多い職場だけに義務付けられているんでしょ?」と誤解されがちなんです。

でも実はそうではありません。

人数による線引きはない

男女雇用機会均等法や、厚生労働省が出している指針には、「従業員が何人以上なら義務がある」という人数の基準は設けられていません。つまり、社員が数人しかいない小さな会社や店舗であっても、ハラスメント防止措置は必ず必要なんです。

職場の定義

さらに「職場」の範囲も広く取られています。厚労省の定義では「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」=これが職場です。

だから、対象になるのは正社員だけではなくて、

  • パートタイマー

  • 契約社員

  • 嘱託社員

  • 派遣社員(派遣先で働く人も含む)

といった形態で働く人たちも全員含まれます。

要するに、「雇用して一緒に働いている人がいる以上、どんな規模の職場でも防止措置は必須」ということです。

まとめ

  • セクハラは「性的な言動」で、パワハラは「職場の優位性を背景にした不適切な言動」。

  • 本人の同意があるように見えても、上下関係や社会通念を踏まえればハラスメントと認定され得る。

  • 被害者本人だけでなく、周囲の職場環境の悪化も判断要素になる。

  • 事業主は防止措置を取る責任がある。

  • 防止措置は会社の規模や人数にかかわらず、すべての職場に義務づけられている。

結局、職場の全員が安心して働ける環境をつくるために、一人ひとりが意識すること、そして会社が仕組みを整えることが大切なんです。

 
 
 

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