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テレビCMで「セフレ」を流すってアリなの? ――法律家の目から見た問題点

  • 7fuku-law
  • 9月6日
  • 読了時間: 6分

アマプラが9月3日から『セフレと恋人と境界線』という恋愛バラエティー番組の配信を始め、そのテレビCMを放映しました。CMの中で「セフレ(=セックスフレンド)」といった性的な言葉がそのまま流れ、不快に感じた視聴者も少なくなかったようです。こうしたきわどい性的な言葉を用いたCMは、法的・倫理的にどんな問題があるのでしょうか。弁護士の立場から整理してみます。

広告は「好き勝手に表現できる」ものではない

まず大前提として、広告は単なる表現活動ではありません。憲法が保障する「表現の自由」はもちろんありますが、広告は商業的な性格が強く、消費者の意思決定に直結するため、厳しい法規制と自主規制の網がかけられています。

具体的には、

  • 景品表示法

  • 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)

  • 業界団体のガイドライン

このあたりが主要な規制枠組みです。

景品表示法から見た問題

景品表示法は、不当な表示によって消費者に誤認を与えることを禁止しています。同法1条の目的は、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害することを防止する」とされており、単に「嫌なら買わなければいい」という市場原理に任せるのではなく、冷静に選択できる環境を守ることにあります。

このため、露骨な性的表現など「社会通念上不適切」と受とめられる広告は、合理的判断を妨げるおそれがあるとして問題視され得ます。現時点で「セフレ」という言葉が直ちに不当表示に当たるわけではありませんが、景表法5条3号に基づく「指定告示」の運用次第では、今後その射程に入る可能性も否定できません。

薬機法と「医薬品等適正広告基準」

薬機法は、医薬品や化粧品などに関する広告を直接規制しています。その中で 薬機法66条3項は「堕胎を暗示し、わいせつにわたる文書を用いること」を禁止しており、医薬品等の広告で わいせつな表現を使うことは違法です。

さらに厚生労働省の 「医薬品等適正広告基準」 では、広告に接した人に「不快、迷惑、不安又は恐怖を与えるおそれのある表現」を禁止しています。例えば、手術場面を露骨に映すこと、医薬品の名称を過度に連呼すること、「あなたはすでに病気です」と不安を煽る表現などが典型例です。奇声を発するなど強い不快感を与える演出も規制対象です。

もっとも、今回問題になっている 恋愛バラエティー番組のCMは薬機法の射程外 です。直接規制されるわけではありません。ただし、薬機法の広告規制が示している「わいせつな表現は避けるべき」「不快感を与える表現は問題になる」という考え方は、一般の広告倫理を考えるうえでも参考になるものです。

業界団体の自主規制

広告業界には、日本広告業協会(JAAA)や日本インタラクティブ広告協会(JIAA)といった団体があり、それぞれ広告倫理綱領や掲載基準を定めています。

いずれも「性に関する表現が露骨なもの」「不快な印象を与える表現」は掲載を避けるべきとしています。つまり法律以前に、業界の常識として「セフレ」を公共電波で流すのはアウトなのです。もっとも、これらの団体のガイドラインはあくまで「業界の自主規制」であって、法的強制力があるわけではありません。したがって、アマゾン自体が直接これらの団体の会員として規制を受けているわけではない点には留意が必要です。それでも、社会的批判を避けるためには、こうした業界基準を尊重する姿勢が求められます。

子どもや青少年への影響

テレビCMの最大の特徴は、不特定多数が否応なく目にするということです。もし子どもが「セフレ」という言葉を耳にしたらどうでしょう。親に「セフレってなに?」と聞く子もいれば、意味も分からず口にする子もいるでしょう。

教育的観点からすれば、子どもに余計な誤解を与えかねない表現をテレビCMに載せるのは、不用意です。青少年への配慮は広告ガイドラインの中でも繰り返し強調されています。

ブランド価値の毀損

結局、最も深刻なのはブランドへのダメージです。テレビCMは莫大なコストをかけて放送されますが、もし視聴者が「セフレという言葉をCMに流すような会社は不快」と感じれば、不買やSNSでの炎上につながります。

広告主は「制作会社が悪い」と言い訳することはできません。最終的に社会的責任を負うのは広告主自身だからです。

アマゾンという企業文化の問題

ここで避けて通れないのが、アマゾンという企業文化の問題です。世界的なプラットフォーマーであるアマゾンは、効率と数字を最優先にする企業風土で知られています。その結果、ローカル文化や社会的配慮を軽視する傾向があるのです。

ローカル文化への無理解

米国の感覚をそのまま日本市場に持ち込み、「これぐらい大丈夫」と考えたのかもしれません。しかし日本ではテレビの公共性が依然として強く、性的な言葉の扱いに敏感です。ここを読み違えると反発は必至です。

炎上マーケティング的発想

「炎上しても話題になれば得」という考え方がネットビジネスでは広がっています。アマゾンの広告戦略にも、そうしたリスク感覚の甘さが透けて見えます。しかし短期的に話題になっても、長期的には信頼を失い、ブランドへの打撃が大きい。

責任の分散体質

アマゾンは責任が分散される企業文化を持っています。現場が承認したのか、制作会社が提案したのか、誰が最終判断したのか分からない――しかし、炎上したときに批判されるのは結局アマゾンです。このガバナンスの弱さが今回の問題を助長しています。

結論 ―― インパクトはあってもリスクの方が大きい

法律家としての結論は明確です。テレビCMで「セフレ」といった表現を使うことは、

  • 法律的にグレーゾーンでリスクが大きい

  • 倫理的にも配慮を欠いている

  • 経済的にもブランド価値を毀損する

確かにインパクトはあったかもしれません。けれども、それは火遊びのようなもので、危険を伴います。

アマゾンほどの企業であれば、本来は社会的責任を意識し、ローカル文化に配慮した広告を出すべきです。にもかかわらず効率優先で「セフレCM」を流したこと自体が、同社の企業文化の脆弱さを示しています。

さいごに

表現の自由は尊重されるべきですし、芸術作品の中で「セフレ」という言葉が登場すること自体を否定するつもりはありません。しかし、公共の電波で流れるテレビCMとなれば話は別です。

社会全体にどう影響するか、子どもにどんな印象を与えるか。広告主はその責任を真剣に考えなければなりません。

アマゾンが次に示すべきは、炎上を「話題性」と片付ける姿勢ではなく、地域社会と共生する姿勢です。

 
 
 

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