大阪・岸和田前市長逮捕で注目の「官製談合」って何?——法律をやさしく解説
- 7fuku-law
- 9月10日
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先日(2025年9月4日)、大阪府岸和田市の永野耕平前市長が「官製談合防止法違反」などの疑いで逮捕されました。ニュースを見て「官製談合って何?」と思った方も多いはずです。談合という言葉は耳にしたことがあっても、「官製」がつくとどう違うのか、そしてどんな法律で処罰されるのか、少しわかりにくいですよね。
そこで今回は、この事件をきっかけに「官製談合」と「官製談合防止法違反」の中身を、できるだけわかりやすく整理してみます。
1 岸和田前市長逮捕のニュースの概要
逮捕されたのは永野耕平前市長(47)。報道によれば、在任中の4年前に市が発注する工事の入札で、特定の会社の代表に「最低制限価格」を教え、落札させた疑いが持たれています。
最低制限価格というのは、「これ以下の金額では工事を請け負わせられない」という下限ラインのこと。本来は厳格に秘密にされるべき情報です。それを特定業者に教えてしまえば、公正な競争が成り立ちません。
市長がそのような行為に関与したとすれば、まさに「官製談合」の典型事例といえるわけです。
2 談合と官製談合の違い
まず、「談合」という言葉を整理しましょう。
談合(通常の談合) これは事業者同士が話し合って、入札の価格をあらかじめ決めてしまうこと。ライバル同士が「君は今回はいくらで入札して、次は俺が落とすから」みたいに申し合わせるわけです。結果、価格競争が働かず、発注者=国や自治体が損をします。
官製談合 普通の談合に「発注者側=役所の人間」が関与してしまうのが特徴です。役所の担当者が「今回の受注者はA社でいきたい」と示したり、予定価格などの秘密を漏らしたりする。あるいは業者から頼まれて特定の会社を有利にするように動く。こうしたケースが「官製談合」と呼ばれます。
つまり「談合」に発注者自身が関わると「官製談合」になる、という理解で大きく外れません。
3 官製談合防止法とは?
官製談合を取り締まるために制定されたのが 「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」、通称「官製談合防止法」です。
この法律では、発注者の職員(国や自治体の職員、あるいは公的法人の職員)が次のような行為をすることを禁止しています。
1.談合を指示すること 「今回の工事はA社に取らせるから、他は手を引け」と言うような行為。
2.受注予定者を決めたり、意向を示すこと 「この会社に落札してほしい」と特定業者を優遇する行為。
3.秘密情報の漏洩 予定価格や入札参加者名、評価点など、非公開の情報を教えてしまうこと。
4.談合の幇助 直接の指示でなくても、職務に反して談合を助けるような動きをすること。
これらは法律上「入札談合等関与行為」と呼ばれています。
4 違反するとどうなる?
違反が認められれば、5年以下の懲役または250万円以下の罰金という刑事罰が科されます(官製談合防止法8条)。
ポイントは、この処罰は「独占禁止法違反」が認められなくても適用できるという点です。つまり、業者同士のカルテルとしての立証が難しくても、「職員が秘密を漏らした」という事実だけで処罰可能なのです。
また、刑事罰だけでなく、懲戒処分の対象にもなりますし、損害賠償請求の対象になることもあります。
5 独占禁止法との関係
談合そのものは独占禁止法で「不当な取引制限」として処罰されます。ただ、独禁法は基本的に「事業者側」を取り締まる法律です。
これに対し、官製談合防止法は「発注者側の職員」を直接取り締まるために作られた、という位置づけです。両方が重なれば、業者も役所の人間も、それぞれの法律で処罰されることになります。
6 なぜ官製談合が問題なのか?
官製談合が発覚すると、まず「公共調達の公正さ」が失われます。入札制度は、競争原理によって価格を抑え、税金を有効活用するための仕組みです。そこに役所が関与して価格操作が行われれば、納税者のお金が不当に使われることになります。
さらに、特定の業者ばかりが優遇され、他の業者は競争から排除されてしまう。健全な企業活動が妨げられるのです。
そして何より、市長や職員が関与していたとすれば、市民の信頼を大きく裏切る行為になります。
7 防止のための取り組み
官製談合を防ぐために、国や自治体では次のような措置が求められています。
入札に関する情報管理の徹底(予定価格の秘匿など)
手続の透明化(電子入札や公開手続の導入)
職員への教育・研修
発覚した場合の改善措置
制度的にはかなり整備されていますが、それでも人が関わる以上、抜け道や誘惑は常に存在しています。
8 今回の岸和田市のケースの意味
今回の岸和田前市長逮捕は、単に一人の政治家の不祥事という枠を超えた意味を持っています。市長というトップ自らが官製談合に関与した疑いが持たれている点で、地域社会への影響も大きい。
しかも永野前市長は、以前から性的関係をめぐる裁判や市議会での不信任といった問題を抱えていました。そこに今回の刑事事件。市政の信頼はさらに大きく揺らいだといえるでしょう。
副市長が「市としては適正に執行している」とコメントしましたが、市民からすれば「本当にそうなのか?」という疑念は簡単には拭えません。
9 まとめ
官製談合とは、発注者側が談合に関与することで、公共調達の公正性・透明性を損なう重大な行為です。
職員が談合を指示する
特定業者に有利な意向を示す
秘密情報を漏らす
談合を幇助する
こうした行為が「官製談合防止法違反」にあたり、刑事罰の対象になります。


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