「騙された」のか「約束を破られた」だけなのか?――詐欺と債務不履行の違い
- 7fuku-law
- 9月2日
- 読了時間: 4分
先日、「被害届を警察に受理してもらうためのコツ ― 特に『詐欺』で渋られる現実と対策」という記事を書いたら、意外と多くの方に読まれました。やはり「詐欺」と聞くと関心が高いテーマなんだと感じます。
そこで今回は、そもそも詐欺と債務不履行の違いについて、もう少し丁寧に整理しておこうと思います。「騙された」と感じるケースでも、法律上は「詐欺」とならない場合が多いのです。
1 詐欺罪の基本(刑法246条1項)
まず「詐欺罪」とは何か。刑法246条1項にはこう書かれています。
平たく言えば――「最初から人をだますつもりで嘘をつき、相手に勘違いさせて、お金や財産を受け取ること」 です。
窃盗罪は「こっそり盗む」、恐喝罪は「脅して奪う」。それに対して詐欺罪は「だまして渡させる」という構造。被害者が「自分の意思で」財産を渡す点が特徴です。
2 詐欺罪が成立するための要件
法律の教科書や判例では、詐欺罪が成立するために次の要件が必要とされています。
1.欺罔行為(人をだます行為)→ 例えば「絶対に儲かる投資だ」と嘘を言うこと。事実を隠すことや歪めることも含まれます。
2.錯誤(相手が勘違いすること)→ 「本当に儲かるんだ」と誤解すること。
3.交付行為(財産を渡すこと)→ 相手がその錯誤に基づいて、お金を振り込む。
4.受領行為(実際に受け取ること)→ 加害者側がお金を受け取る。(第三者でも可)
5.故意(二重の故意)→ 「だましてやろう」と思い、実際に勘違いさせる意思があること。
6.不法領得の意思→ 不当に自分のものにしようとする意思。
この流れ(だます→勘違いさせる→交付させる→受け取る)が因果関係としてつながってはじめて、詐欺の既遂罪が成立します。(後述しますが、未遂も処罰の対象です。)
3 債務不履行とは?
一方で「債務不履行」とは民法上の概念で、簡単に言うと――「約束を守れなかったこと」です。
例えば:
本当は返す気があったけど、途中でお金がなくなり返せなかった
商品を発送する予定だったが、会社が倒産して送れなかった
これは「騙した」わけではなく「約束を破った」だけなので、刑事事件ではなく民事事件になります。
解決手段は、警察ではなく裁判所での民事訴訟(返金請求や損害賠償)です。
4 グレーゾーンの難しさ
実務で一番難しいのは、この二つの境界線です。
例えば「返すつもりだったけど結局返さなかった」場合、被害者からすると「だまされた!」と感じます。
しかし裁判所や警察は、
本当に最初から返す気がなかったのか?
返す気はあったけど、能力がなかっただけでは?
という点を慎重に見ます。
ここで特に重要なのが欺罔行為の有無です。つまり、契約の段階で相手が「虚偽の事実を告げていた」かどうかがカギになります。
例えば――
「返す気がある」と言って借りたが、実はその時点で返済原資も計画も全くなかった
「開業するから投資してほしい」と言ったが、そもそも開業する気がなかった
こうした場合は、最初からだますつもりだった=詐欺罪となります。
逆に、返済の見込みはあったけれど、途中で生活が苦しくなって返せなくなっただけなら、詐欺ではなく債務不履行です。
言い換えると、「約束を守れなかった」のか、「約束する時点で嘘をついていた」のか。この点が、刑事と民事を分ける最大の境目なのです。
ですので、非常に重要なのが「欺罔行為(騙す行為)」の証拠の有無です。LINEた録音等に嘘をついた証拠が残っていれば、証明はしやすいということになります。
5 詐欺罪の類型と未遂
詐欺罪には2つのタイプがあります。
1項詐欺罪(財物詐欺):お金や物をだまし取る場合
2項詐欺罪(利益詐欺):お金以外の利益(債務免除や労務提供など)を得る場合
また、詐欺は未遂でも処罰されます(刑法250条)。「だまそうとして嘘をついたけど、相手が気付いて渡さなかった」場合でも未遂罪が成立します。
まとめ
詐欺罪は「最初からだますつもりで嘘をついた」場合(刑事事件)
債務不履行は「約束を守れなかった」場合(民事事件)
ポイントは 欺罔行為の有無 と 最初からだます意思の有無
境界線はあいまいで、証拠がなければ詐欺として立件されにくい
「騙された!」と感じても、法律的にはただの債務不履行ということも少なくありません。だからこそ、契約当初の言動に嘘があったかどうかを丁寧に見極める必要があります。


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