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「債務不履行罪」の創設について考えてみた――約束を守らなかったら刑務所に?

  • 7fuku-law
  • 9月6日
  • 読了時間: 3分

債務不履行罪を作った方がいいのでは?と思ったことがある

弁護士をしていると、腹立たしい場面に出会います。お金を借りておきながら、約束を守る意思がまるでなく、平然と開き直る人間。依頼者が必死で貯蓄してきた資金を、くだらない事に消費してしまう。挙げ句の果てに「詐欺じゃないから逮捕されないでしょ」と開きなおるのです。

そういう相手を目の前にすると、一時期は私自身も思いました。――「もう債務不履行罪を作って、刑務所に入れた方がいいのではないか」と。

刑務所に入れてでも懲らしめたいと思わせる現実

実際、費用をかけて民事裁判を起こし、勝訴しても、相手の財産が判然とせずに回収できないことは、残念ながら珍しくありません。依頼者は泣き寝入り。加害者はのうのうとしている。現行法のままでは「やったもん勝ち」「踏み倒した者の勝ち」になっているのです。こうした現実を前にすると、感情的に「約束を守らない奴は、刑務所に入れて懲らしめろ」と思うのも無理はない。

それでも債務不履行罪は創設できない

しかし、冷静に考えれば「債務不履行罪」にはあまりにも大きな弊害があります。

経済活動の萎縮

倒産や資金繰りの失敗まで刑罰対象にしてしまえば、新規事業やリスクを取った挑戦は不可能になります。事業の世界では、誠実に努力しても失敗はつきものだからです。

結果責任は刑法に馴染まない

さらに言えば、刑法は「行為責任」を原則としています。「結果が悪かったから処罰する」という結果責任の発想は、刑法理論にそぐいません。債務不履行は結果そのものであり、そこに至る経緯を無視して処罰することはできません。もし結果だけで処罰を始めれば、努力しても返せなかった誠実な人まで刑務所行きになるでしょう。

努力したかの線引きの曖昧さ

上記を回避するために、結果だけでなく、「努力したかどうか」を基準にしても、それを判断するのは不可能に近い。「努力をしたが、約束を果たせなかったのか」「怠けていたから、約束を果たせなかったのか」――この基準は、極めて曖昧です。

警察・検察の債権回収化

もし債務不履行を犯罪化すれば、警察や検察が民間の債権回収の道具にされます。訴えさえすれば、相手を逮捕してもらえる――そんな社会は危うい。

やっぱり「無理」

こうして考えると、やはり「債務不履行罪」を新設するのは現実的に不可能です。経済を壊し、法体系を歪め、かえって市民生活を不安定にするでしょう。

必要なのは「回収力」の強化

ではどうすればよいのか。結論は明快です。刑罰ではなく、実効性ある回収の仕組みを作ること。

  • 財産開示制度を徹底し、口座や勤務先の情報をオンラインで即時に把握できるようにする

  • 強制執行をもっと簡易で安価にする

  • 公的な債権回収機関を整備し、市民が泣き寝入りしない仕組みを整える

約束を守らない人を刑務所に入れることではなく、人を信じてお金を貸した人にきちんとお金が戻ることこそが重要です。

結論

「債務不履行罪を作れ!」――そう思う気持ちは私も痛いほどわかります。しかし、法制度としては不可能であり、弊害が大きすぎます。

結果責任では刑罰は科せない。だからこそ、目を向けるべきは「確実な債権回収システム」の整備です。不誠実な人間が「やり得」で終わらないよう、実効性ある回収制度を整備することこそ、必要な改革だと考えます。

 
 
 

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